松山地方裁判所 昭和58年(わ)648号 判決
判決主文
被告立花ボーリング株式会社を罰金二二〇〇万円に処する。
被告人玉乃井厚則を懲役一年に処する。
被告人玉乃井厚則に対し、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告立花ボーリング株式会社及び被告人玉乃井厚則の連帯負担とする。
(罪となるべき事実)
被告立花ボーリング株式会社は、頭書肩書地に本店を置き、パチンコ業及び軽飲食業の経営を目的とする株式会社であり、被告人玉乃井厚則は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、土地、機械装置の取得価額の一部を圧縮し、いったん営業権として仮装計上したあと、これを順次償却して損金処理するなどの方法により所得の一部を秘匿した上
第一 昭和五四年一〇月一日から同五五年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額は零円、課税土地譲渡利益金額は一億〇八九四万円であるにもかかわらず、同五五年一一月二九日松山市本町一丁目三番四号所在の松山税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における所得金額は零円、課税土地譲渡利益金額は九八九四万円であり、これに対する法人税額は一九六〇万三四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五九年押第一九号の6)を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額二一六〇万三四〇〇円と右申告税額との差額二〇〇万円を免れ
第二 昭和五五年一〇月一日から同五六年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額は四六九五万〇八五六円であるにもかかわらず、同五六年一一月三〇日前記税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における所得金額が零円であり、納付すべき法人税額はない旨の法人税確定申告書(昭和五九年押第一九号の7)を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額一六九一万四三〇〇円を免れ
第三 昭和五六年一〇月一日から同五七年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額は三億四一九二万〇一九六円であるにもかかわらず、前記営業権を償却して損金処理する方法によるほか、架空の納品書、請求書、領収証を作成して架空経費を計上するなどの方法により所得の一部を秘匿し、同五七年一一月三〇日前記税務署において、同税務署長に対し、有事業年度における所得金額は一億二四七五万一五九三円であり、これに対する法人税額は四九八三万四八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五九年押第一九号の8)を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額一億四一〇四万五七〇〇円と右事告税額との差額九一二一万〇九〇〇円を免れ
たものである。
(昭和五四年一〇月一日から同五五年九月三〇日までの事業年度における法人税のほ脱額を二〇〇万円の限度で認定した理由)
一 検察官は、右事業年度における被告会社の実際所得金額は七九四八万六五八二円、課税土地譲渡金額は一億〇八九四万円であったから、法人税のほ脱額は三二九五万四四〇〇円であるとして起訴し、これに対し、弁護人は、被告会社が昭和五四年三月松山市中央一丁目所在のパチンコ店中央ホール(以下「中央ホール」という)の土地、建物及び機械、器具、什器、備品等の動産類(以下これら同店にかかる営業用資産の総体を「中央ホール全体」という)並びに青木稔及びサダ子(以下「青木ら」という)の共有土地を購入した代金九億円中には「中央ホール」の営業権二億四〇〇〇円が含まれていたから、被告会社においてうち一億二〇〇〇万円を右事業年度に営業権として償却する会計処理をしたところ、右会計処理のうち九二一三万四七〇〇円を償却した部分は正当である旨主張するので、検討する。
二 税法上の営業権とは、ある企業の伝統と社会的信用、立地条件、特殊の技術、特殊の取引関係の存在並びにそれらの独占性等を総合した、他の企業を上廻る企業収入を稼得することができる無形の財産的価値を有する事実関係をいうものと解すべきところ、関係証拠によれば、次の事実が認められる。
1 株式会社幸商店(以下「幸商店」という)は、昭和五〇年一二月松山市中央一丁目に「中央ホール」の名称でパチンコ店を新規開店し、相当の営業成績をあげて順調に営業していたが、愛媛ビジネスセンター有限会社(以下「愛媛ビジネスセンター」という)の幸商店に対する一億円の債権を担保するため同社に対し、「中央ホール」の建物、道産類の所有権を譲渡し、かつ、右建物の敷地等である土地につき賃借権を設定していたところ、他の事業で失敗して大きな損失を被り、弁済期間の昭和五三年八月初めころ不渡手形を出したため、右建物、動産類の所有権及び土地賃借権が愛媛ビジネスセンターに確定的に帰属し、そのころ同社は幸商店から中央ホール全体の引渡を受け、従業員をそのまま使用してパチンコ店の営業にあたるようになった。
2 幸商店は同年九月八日破産宣告を受け、その代表取締役吉金利行は破産管財人と相談の上、中央ホール全体を第三者に譲渡し、その代金で破産債権の整理をし、被産手続を円滑に進行させようと考え、愛媛ビジネスセンターに対し前記一億円の債務及びパチンコ機械の取替え等「中央ホール」の経営に際し投下した金員に各相当する金額を支払うことで、破産管財人が中央ホール全体を第三者に譲渡するにつき愛媛ビジネスセンターの同意を得た。
3 被告人は、前記吉金から苦境を訴えられ協力を要請されたため、昭和五四年三月被告会社において、裁判所の許可を得た破産管財人から中央ホール全体を、青木らから「中央ホール」等の駐車場として使用されていた共有土地を買い受けた。
4 破産管財人との右売買は、契約書上は中央ホール全体を対象としていたが、当事者間では従業員も引き継いで、営業自体は従前と変わらず継続し、営業主体のみが交替するという、いわゆる居抜きの売買と意識されていたことから、被告人は、予め幸商店の昭和五一年一〇月から同五三年六月までの間のコンピューターによる売上利益明細書を検討し、幸商店が経営していた右時期における中央ホールの営業成績は被告会社経営の他のパチンコ店よりも相当良好であり、新しく土地を購入し建物を建て機械を設置して新規にパチンコ店を開業する場合と比較し、中央ホール全体をその時価評価額より割高に買い取っても採算がとれると判断して右売買をした。
5 青木らの共有土地については、幸商店のために根抵当権が設定されていたところ、被告会社は同土地を引き続き「中央ホール」等の駐車場として確保する必要があったことから、中央ホール全体の売買と密接不可分の関係があるものとして、幸商店の債権者に一億円を支払って右根抵当権を消滅させて同土地を買い受けることとした。
6 被告会社は、昭和五四年三月青木らの共有土地の売買代金として時価による一億五〇〇〇万円、同土地に設定されていた根抵当権を消滅させるために一億円、中央ホール全体の代金として六億五〇〇〇万円の合計九億円を支払い、間もなく、愛媛ビジネスセンターに代わり中央ホールでパチンコ店経営をしていた三共株式会社(愛媛ビジネスセンターの代表取締役西原清が「中央ホール」経営のために設立し、自ら代表取締役となっていた会社)から中央ホール全体及び青木らの共有土地の引渡を受けて、パチンコ店の営業を開始した。
三 右に認定した事実によれば、被告会社は「中央ホール」という企業を包括的に一体として譲受けたものであるところ、同店の営業は昭和五〇年一二月の開店以来順調で、従前から被告会社が経営していたパチンコ店よりも成績が相当良好であったから、「中央ホール」がかなりの知名度をもって付近住民等の顧客に知られ、相当の常連客があったものと認められ、したがって、同店の営業は、伝統、社会的信用があり、立地条件ないし特殊の技術等の独占性を有し、他の企業を上廻る企業収入を稼得することができたものと推認され、また、いわゆる居抜きで買取って直ちに営業を開始したため、通常の新規開店に伴う開業準備、広告宣伝のための費用と時間を要しなかったことも認められるのであるから、以上によれば、「中央ホール」の譲渡につき前記営業権として評価すべき事実関係が存在したと認めるのが相当である。そして、前記のとおり被告人は右売買にあたり、営業権として評価すべき事実関係が存在することを知り、「中央ホール」等を包括的に、いわゆる居抜きで購入するとの認識を有していたことが認められるから、その代金額中には前記の営業権として評価すべき事実関係の移転の対価に相当するものが含まれているとの認識を有していたものと認められる。
もっとも、関係証拠によれば、当事者にこれが税法上の営業権にあたることの認識がなかったことは認められるが、このことは右認定の妨げとなるものではない。
検察官は、右売買当時幸商店は倒産し、その営業は三共株式会社が行っていたから、幸商店から被告会社に移転すべき営業権はない旨主張するが、当時、前記西原清は愛媛ビジネスセンターの前記債権相当額及び「中央ホール」への投下資本の回収を果たすことで満足し、三共株式会社が現に営業中の中央ホール全体を破産管財人が処分することを認めたのであるから、破産管財人は営業権を被告会社に移転譲渡できるものというべきである。
四 そこで、本件営業権の価額について検討するに、被告会社が支払った九億円から青木らの共有土表の代金一億五〇〇〇万円を除く七億五〇〇〇万円のうち営業権価額はいくらかという問題となる。関係証拠によれば、「中央ホール」の建物三五〇〇万円、機械等一億一〇九一万八〇〇〇円、構築物六〇一万五〇〇〇円、冷暖房設備四〇〇〇万円が中央ホール全体の資産価額の一部として認められるほか、土地代として三億六五九三万二三〇〇円(三一八二・〇二平方メートル×一平方メートルあたり単価一一万五〇〇〇円)が認められる。しかし、青木らの共有土地の根抵当権を消滅させるため債権者に支払った金一億円については、右支払が青木らの共有土地取得のために必要であったこと、あるいは、同土地の売買契約と中央ホール全体の売買契約とが密接不可分のものとして結ばれたことからすれば、青木らの共有土地あるいは中央ホール全体の取得費用であって土地代の一部となるというべきであり、これを営業権の一部とみることはできない。
そうすると、「中央ホール」にかかる資産取得価額とみることのできる合計額は五億五七八六万五三〇〇円となり前記七億五〇〇〇万円から右一億円を控除した六億五〇〇〇万円との差額九二一三万四七〇〇円が問題となるところ、右差額は前記三認定の事実関係のほか、中央ホール全体の資産価額及び被告会社の支払った金額との均衡ないし比率からして不当に多額ともいえないことなどからすると、これをもって中央ホール全体の売買の際の適正な営業権価額と認めるを相当とし、右認定を左右するに足りる証拠はない。
よって、営業権価額は九二一三万四七〇〇円となる。
以上の次第で、営業権を右の限度で認めたため、同事業年度においてこれを償却すると、実際所得金額は零円、法人税額は二〇〇万円となる。
(量刑の事情)
本件は、三年間の所得の過少申告額が合計約二億七四〇〇万円、法人税のほ脱額が合計約一億一〇〇〇万円の多額かつ長期に亘る脱税事案であり、特に大きな収益をあげた第三年度においては架空の納品書、請求書、領収証を作成し、原因関係のない手形を形式上振出して順次書き換えるなどの不正な方法により所得の約三六・五パーセントを申告したに過ぎないなど犯情は悪質であって、被告人両名の責任は重いというべきである。
しかし、営業権として処理した一部については前示のとおり正当な会計処理と認められること、脱税の目的は被告会社の内部留保のためであって、遊興あるいはいわゆる財テクなど被告人個人の欲望を満たすためのものではなかったこと、被告人らは、右認定の正当な会計処理分を除く本件起訴事実につき最終的にこれを認めたほか、本件が国税庁に発覚後本件記訴前に修正申告をして修正分の法人税、延滞税、重加算税を納め、また、今後は経理面にも注意を注ぎ、税法にのっとって正しい申告をする旨誓っているなど反省の情が認められること、被告会社には同種前科がなく、被告人は前科前歴を有さず、善良な実業家として活動してきたこと、本件か広く報道されたことなどにより既に相当の社会的制裁を受けていることなど、被告人らに有利に斟酌すべき事情を考慮して、主文のとおり量刑することとした(求刑は被告会社につき罰金四〇〇〇万円、被告人につき懲役一年六月)。
(裁判長裁判官 篠森真之 裁判官 大串修 裁判官 鍬田則仁)